性の現場から
自らのぞんだことで傷つく
ゆりこ(仮名)は、専門学校生で、私が出会った当時、彼女は20歳で大人気の単体女優だった。処女デビューとして男性誌の表紙を飾り、写真集の出版、グラビアを掲載した男性誌も話題になった。進学をきっかけに地方から東京に移り住んだゆりこは、生活費や学費のためにアルバイトをしていたが、どの職場でも人間関係がうまくいかず、生活に困窮していたところ、高収入を保証するというネット広告を見て、女優専門事務所に、自ら電話をかけて応募したと言う。「天然ぽさ」と「処女」という売り出しが当たり、あっという間に事務所の一押しになった。毎月連続で発表した10本シリーズの単体作品はどれも好評だったが、その後の展開として、制作会社から、より性的に過激な演出が求められた。その演出は、ゆりこにとって、受容できるものではなく、生活のために気軽に始めたアルバイトのはずの女優業は、実家や専門学校の友人にもバレ、引き返せない現実との間で心身のバランスを崩し、医療機関を受診した。検査の結果、発達特性があることがわかり、仕事によって受けた行為によるPTSDの診断がでた。また、自身の行動が、幼少期に遭った性暴力からの自己治療の一環としての性的自傷であることもわかった。ゆりこは現在、シェルターに身を寄せ、支援者に守られ、制作会社や事務所とも絶縁し、心身の回復と自身の尊厳を取り戻すための治療に専念している。(彼女の体験を書くにあたり、本人に、同意を得た。個人が特定される情報は、ぼかした表現にした。)
自らのぞんだはずのことで傷つき体験を重ねる発達特性のある人たちは、ゆりこだけではない。支援の現場では、メンタルヘルスに問題を抱えた女性たちの聞き取りを行うと、幼児期から性的な加害により、性的自傷に気づかないまま、過剰適応して性売買に取り込まれていったり、エンターテイメントとして性的自傷を重ねる人たちは、少なくない。
ゆりこは特殊な例ではない。生活に困窮した女性が福祉につながりにくい現実、発達特性がある人を搾取する業界、性的自傷が一般に知られておらず、本人がのぞんだこととして消費されてしまうこと、当事者も自身の特性や性的自傷や過剰適応の知識がなく、自身の存在意義を性行為に求めてしまうことなど、多くの人に知ってもらいたい。
資料写真
現在の法整備のもとでは、当事者自身が性的自傷や過剰適応に気づけないと、支援に繋がることができない。厚生労働省で新たな法整備の動きが出ていることに期待したい。
支援現場からの声
発達特性ある女性を描いた漫画がTwitterなどでシェアが広がり話題になった。ある作品は、軽度知的障害がある女の子が苦労の末、幸せを見つけるというハッピーエンドの感動作だ。しかし、現実はもっと悲惨だと、支援職らは指摘する。
性売買、支援教育、就労支援の現場で過酷な加害が起きている。その件で、現場を知っている方からお話を頂いた。
多くの人に発達特性のある人が性に関して搾取されている現実を知って欲しい。連続ツイート読んで下さい。
性売買、支援教育、就労支援の現場で過酷な加害が続く。支援職から知的障害の女の子を描いた漫画作品と現実との違いを指摘する声が上がっている。
現実には、「必要とされると拒めない女の子」というレベルで済むことは少なくて、判断力が脆弱で、性産業に吸収されて搾取されてる子がたくさんいます。性産業に吸収されてしまう障害者たちが受けてる搾取の深刻さを思うと「必要とされると拒めない女の子」「流されやすい」という可愛いい言葉では被害の深刻さが矮小化されてしまうのではと感じました。知的障害があり妊娠させられたりや悲惨な衛生状態の風俗店でひどいことをされてる子が大勢います。軽度知的障害という、一見判りづらい困難を抱えた人が、具体的にどんな時に困っているかを世間に伝えるという意味ではいい作品だなと思いました。ただ読者には、知的障害があり性売買で搾取されたりホームレスになる人の存在も知って欲しいと思いました。ハッピーエンドばかりではないことを。
施設のトイレで窒息死した乳児 事件は防げなかったのか 知的障害の女性が出産、元職員「性のはけ口に」 | 2021/10/12 - 47NEWS nordot.app/81876049506213… 施設のトイレで窒息死した乳児 事件は防げなかったのか 知的障害の女性が出産、元職員「性のはけ口に」 | 47NEWS 北海道南部にある就労支援施設で2020年3月、知的障害がある女性がトイレで乳児を出産、そのまま便器に... nordot.app
もっと酷い加害に遭いたいと性的自傷状態になる性暴力被害者やいじめ被害者はかなり多くて、悪い大人や業者につけこまれやすい。
性搾取する側も知識がなくて、単にエロい子として扱うから、本当に酷いことになる。どうにか支援に繋ぎたいね。
障害のある女性が被害者となったニュース
事件化され、報道される障害者への性暴力は、氷山の一角だ。
フラワーデモのきっかけとなった事件も被害者は障害のある女の子だった。
低年齢化する性暴力
幼児間、子ども間性暴力についても法整備が足りない。被害者の多くは、発達特性のある子どもだ。声をあげた子や保護者が嘘つき呼ばわりされ、泣き寝入りするケースばかり。保育の民営化以降、幼児間のいじめの増加とともに、幼児間性暴力も増えている。被害者が行政に対応を求めるも、なかなか改善されていない現実がある。
子どもへの性行為により、生涯にわたり重篤な心身の後遺症で悩む事例が多いことを精神科医が指摘している。
終わりに
発達特性のある子どもたちが守られなければならない学校、家庭、居場所、保護施設などの場所で性加害に遭っても蓋をされている現実、後々に性売買に搾取されてしまう人たちの過酷な現実を変えたい。変えるのが大人の役目であるはず。幼児期からの性教育、人権教育、正確な性教育の普及が日本社会には必要だ。
郡司 真子 MasakoGUNJI フリージャーナリスト
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